イタグレは飼育しやすいのか——「2種類の難しさ」で出す結論

「犬を飼うのが初めてなんですが、イタグレって初心者には難しかったりしますか?」

子犬をお迎えしようとしているお客様から、よくご質問いただきます。

ラーテル犬舎的には

「難易度的には、そこまで高くない。攻撃性があったり、噛みつく・吠えるというのが全くない。普通に育てて失敗することはほとんどないです。ただ、動きがアクティブなので、抱っこしていて落としてしまって足を折ってしまう、といった点には気をつけていただく必要があります」

と大体答えております。

でも、正直に言うと——これでは質問に答えきれていない、とも思っています。

「難しくない」の一言では、迎えてから「こんなはずじゃなかった」になる可能性を消せません。

だからこの記事で、タイトルの問いに正面から答えます。


目次

結論から言います

イタグレの飼育のしやすさを総合すると、ラーテルの評価は「中の上」です。

ただし「手がかからない」という意味の飼いやすさではありません。

正確に言うとこうなります。

「乱暴さ・がさつさといった、手のかかる難しさは、全犬種の中でも最小クラス。その代わり、繊細さと体の脆さに気を配る難しさがある」

ここに、この記事の全部が詰まっています。

難しさには2種類あります。

  • 手のかかる難しさ(攻撃性が高い・吠えが激しい・制御が難しい)→ イタグレは低い
  • 気を配る難しさ(繊細でデリケート・体が脆い・丁寧な環境づくりが要る)→ イタグレはある

この切り分けを頭に置いた上で、以下を読んでいただくと、「自分にとって飼いやすいかどうか」の答えが自分で出せるようになります。


飼育のしやすさを「6つの軸」で採点する

飼育のしやすさは漠然とした印象では決まりません。要素に分けて考えます。

以下の評価はラーテルの評価であり、絶対的な指標ではありません。

個体差や育て方による変動が大きい点は、あらかじめご承知おきください。

軸1:気質の安全性(攻撃性・噛みつき)——◎ とても飼いやすい

評価の理由

ペンシルベニア大学が開発した犬の行動評価ツール「C-BARQ」のデータでは、イタリアングレーハウンドは飼い主への攻撃性が非常に低い傾向が示されています。

ただしイタグレのサンプル数は他の人気犬種と比べて極めて少なく、
統計的な確実性には限界があります。

あくまで「傾向を示す参考値」として扱う必要があります。

ラーテルの繁殖経験とも、このデータの傾向は一致しています。

イタグレは追い詰められても噛みつくより逃げます。

見知らぬ人には警戒しますが、興奮して威嚇するタイプでもありません。

なぜこういう気質なのか。

イタグレはもともと「サイトハウンド」——視覚で獲物を追う狩猟犬——として生まれ、
同時に何世紀にもわたって人の膝の上で過ごす伴侶犬として育ってきた犬種です。

人と一緒にいることへの親和性が、体格と同じくらい深いところに刻まれているのかもしれません。

「咬傷事故が怖い」という不安は、イタグレを選んだ時点でかなり小さくなります。

これは初心者にとって最も大きな安心材料のひとつです。

軸2:吠えによる近隣トラブルの起きにくさ——○ ふつう

評価の理由

C-BARQの参考値では、吠えにくい傾向が示されています。

マンションや住宅密集地での飼育でも、吠え声を理由とするトラブルになりにくい犬種です。

ただしイタグレは繊細で警戒心のある犬種です。物音や見知らぬ気配に反応して短く吠える子もいます。

「絶対に吠えない」ではなく「吠えが問題になりにくい」というのが正確なところです。

吠えへの対処に時間を取られることは少ない傾向がありますが、ゼロではないと思っておいてください。

軸3:しつけ・トイレトレーニング——△ 手間・注意が要る(最大の難所)

評価の理由

正直に言います。これが初めてイタグレを迎える方がもっともつまずきやすいポイントです。

海外のイタグレ専門レスキュー団体では、トイレ問題が「返還・手放しの主な理由」の上位に挙げられています。

なぜ難しいのか。3つの要因が重なるためです。

1. 膀胱コントロールが弱い

小型犬全般に言えることですが、イタグレも膀胱コントロールの発達が遅い面があります。

成長とともに改善しますが、子犬期は「漏れやすい犬種」として見ておくほうが現実的です。

2. 寒さや雨の日に外排泄を嫌がる

後述しますが、イタグレは寒さに非常に弱い犬種です。

冬の朝や雨の日に「外に出ても絶対に排泄しない」という子は珍しくありません。

室内トイレを使いこなせていない子が「外では排泄せず家に戻ってから失敗する」という悪循環に陥りやすいのも、
この寒さとの相互作用です。

3. 繊細な気質が「ここは安全」という学習を遅らせる

恐怖心の強い犬種は、新しい環境に慣れるのに時間がかかります。

「この場所で排泄していいのだ」という安心感が形成されるまでの期間が長くなりがちです。

ラーテルの経験則

ただし、子犬期から丁寧に取り組んだ場合、3週間〜1ヶ月でかなり完成に近づく子が多いというのが、ラーテルでの繁殖経験から得た実感です。

海外のレスキューが目にするのは、成犬になってからトイレ問題が固定化したケースが多いはずです。

「子犬からきちんとやれば、過度に恐れることはない。でも甘く見てもいけない」というのが正直なところです。

これは「難しいが、やり方と根気でカバーできる難しさ」です。

室内トイレをしっかり設置・管理することが第一歩になります。

トイレトレーニングは「うちの子、なんでできないんだろう」と自分を責めやすいポイントです。

できない理由は飼い主のせいではなく、犬種の特性と理解した上で、根気強く続けることが大切です。

軸4:体のデリケートさ(骨折リスク)——△ 手間・注意が要る

評価の理由

イタグレは橈尺骨(前脚の2本の骨)を骨折しやすい犬種として知られています。

骨が細く、体に対して脚が長いため、落下や着地のときに特定の部位に力が集中しやすいためです。

VCAの医療情報でも骨折リスクが明記されており、骨密度・プレート手術に関する複数の研究でも裏付けられています(Harasen 2003・2012)。

主な原因は2つです。

  • 抱っこ中の落下:動きがアクティブなため、腕の中で突然暴れて滑り落ちることがあります
  • ソファ・椅子からの飛び降り:自分で飛び降りる場合も、予想より高い衝撃が前脚にかかります

骨折した場合は外科手術が必要になることがほとんどです。

費用はケースや医療機関によって異なりますが、
おおよそ数十万円規模になる場合もあります。時間的な負担(通院・安静管理)も相当なものです。

ただし、これは予防可能なリスクです

、低い位置で抱っこする、滑り止めマットを床に敷く。これらの環境整備で、リスクは大きく下げられます。

骨折予防と運動管理の詳細については、別の記事で詳しく書いています。

「気を配れば防げるリスク」です。意識して環境を整えた人にとっては、さほど怖いリスクではありません。

知らないまま迎えた人にとっては、思わぬ形で直面することがある。この差が大きい軸です。

軸5:生活環境の要件(寒さ・留守番・運動)——○〜△ 状況による

評価の理由

寒さへの弱さ

イタグレは皮下脂肪が少なく、被毛が非常に薄い犬種です。

体温維持が難しく、冬の散歩では防寒着が「おしゃれ」ではなく「実用品」です。

寒さで震えた状態では外での排泄を嫌がり、軸3のトイレ問題と悪循環を起こしやすい。
秋〜春にかけての防寒は、トイレのしつけと直結した問題でもあります。

留守番と依存度

イタグレはサイトハウンドの中でも飼い主への依存度が高い傾向があります。

ただしこれは「在宅でなければ飼えない」という話ではありません。

子犬期から段階的に「ひとりの時間」を練習させることで、留守番への耐性をつけることができます。

分離不安の予防と対処については、別の記事に詳しくまとめています。

運動量

「小型犬だから運動は少なくていい」はイタグレには当てはまりません。もともと速く走るために作られたサイトハウンドです。毎日きちんと体を動かす機会が必要です。

骨折リスクを理由に「走らせない」方向に振りすぎると、今度は骨が弱くなるという逆説もあります(Wolff’s法則)。

これらは「ライフスタイルが合うかどうか」の問題です。解決できない問題ではありませんが、事前に自分の生活スタイルと照らし合わせることが大切です。

軸6:健康管理コストと日常の手入れ——○ ふつう

評価の理由

短毛で抜け毛は比較的少なく、トリミングは不要です。

日常の被毛ケアは他犬種と比べてかなり楽な部類に入ります。

これはイタグレが明確に「手がかからない」側に属する点です。

一方で、寒さ対策のウェア(複数枚必要になることも)、骨折リスクに備えたペット保険、スロープ等の環境整備など、イタグレ特有の初期費用・維持費用はあります。

一般的な小型犬と同じ感覚で「費用は少なくて済む」と思っていると、想定外の出費につながることがあります。

歯・皮膚など一般的なケアは他犬種と同様に必要です。

定期的な歯磨きの習慣をつけることも大切です。

日常の手間は少ない。でも「万が一の費用」をカバーできる準備はしておくことを、お勧めしています。


総合判定——答えを言い切ります

6つの軸を振り返ると、こういう姿が見えます。

手のかかる難しさ(軸1・2・6の一部)→ 低い

攻撃性は最小クラス、吠えも少ない傾向、被毛の手入れも楽。

「乱暴で制御できない」という意味での難しさはほとんど感じない犬種です。

気を配る難しさ(軸3・4・5)→ ある

トイレトレーニングには覚悟が要る。骨折リスクは環境を整えれば防げるが、知らないと怖い。

寒さ・留守番・運動への対応は、ライフスタイルと相談が必要。

これが、ラーテルの総合評価「中の上」の中身です。

イタリアングレーハウンドは飼育しやすいのか?

「イタグレに向き合える人にとっては、非常に飼いやすい犬種です。」

これが正直な答えです。


「向いている人/慎重に考えた方がいい人」チェックリスト

ここまでを踏まえて、自分に当てはめてみてください。

向いている人

  • 室内で一緒に過ごす時間を、ある程度確保できる
  • こまめな環境整備(スロープ、滑り止め、防寒対策)を惜しまない
  • 「褒めて育てる」という方針に共感できる
  • トイレトレーニングに根気よく取り組む覚悟がある
  • 急な医療費が発生する可能性を、ある程度想定しておける

慎重に考えた方がいい人

  • 「犬は自然にトイレを覚えるもの」と思っている
  • 大型犬のようなタフさ・体力を期待している
  • 医療費を含む費用的な余裕に不安がある
  • しつけに「叱る・罰を与える」方法を使いたい

「向いていない=飼ってはいけない」ではありません。

「生活の調整と準備が要る」という話です。

どの点が自分の生活と合わないかを事前に把握しておくことが、
迎えてからの「こんなはずじゃなかった」を防ぐことにつながります。


初心者が”飼いやすさ”を上げるためにできること

6つの軸のうち、最大の難所は軸3(トイレ)・軸4(骨折)・軸5(留守番)です。

でもこの3つは、いずれも「初心者でも対策できる難しさ」です。

トイレ——成功体験の積み重ねがすべて

子犬を迎えたら、最初から丁寧に取り組むことが大切です。

タイミングを見て(起床後・食後・遊び後)適切な場所に連れて行き、成功したらしっかり褒める。

この繰り返しが「ここで排泄するといいことがある」という学習につながります。

寒い日は防寒着を着せてから外に出すか、室内トイレを活用する。

失敗しても叱らず、成功をひたすら積み上げていく。
これだけです。シンプルですが、続けることの根気が問われます。

骨折——スロープと抱っこの高さで防ぐ

ソファや椅子に乗せる場合は、スロープやステップを設置して自分で昇降させる習慣をつける。

抱っこするときは低い位置で。

床には滑り止めマットを敷く。

これらを最初から徹底しておけば、骨折リスクは大幅に下がります。

「気をつけよう」ではなく「そもそも飛び降りられない環境」にしてしまうのが確実です。

留守番——子犬期からの段階的な練習

子犬期から「ひとりで過ごす時間」を少しずつ練習させておくことが予防になります。

最初は1〜2分から始め、徐々に延ばしていく。クレートをポジティブな場所として定着させておくと、留守番中の安心感につながります。

帰宅時に過剰に興奮して迎えることは、「留守番=特別なこと」という認識を強めてしまうため、落ち着いてから声をかけるのがよいと言われています。

罰を使わない——恐怖性咬傷を防ぐために

「攻撃性が低い犬種なのに、なぜ噛む?」という事態を防ぐためにも、罰に頼らないことが大切です。

恐怖心が強い犬に対して叱る・大きな声を出す・罰を与えるを繰り返すと、

その蓄積がある日「恐怖性咬傷(fear biting)」——普段は人を噛まないのに、追い詰められて反射的に噛む——につながる可能性があります。

「褒める・無視する・環境を整える」を基本に据えてください。


最後に——改めて、タイトルの問いへの答え

イタリアングレーハウンドは、飼育しやすいのか。

手のかかる難しさは、全犬種の中でも最小クラスです。
乱暴さ・制御の難しさという意味での苦労は、ほとんど感じません。

その代わり、繊細さと体の脆さに気を配る難しさはあります。
トイレ・骨折・寒さ・留守番。これらに丁寧に向き合う準備ができているかどうか、が問われます。

丁寧に向き合える人にとって、イタグレは初めてでも本当に良いパートナーになります。

人を傷つけることへの欲求がもともと薄く、飼い主との時間を大切にする。

その本質的な温かさは、準備してきた人に、きちんと返ってきます。


留保と補足

この記事に書いた気質の傾向(C-BARQデータ)は、現時点で確認できる参考値であり、イタグレ固有の気質を扱った査読論文は現時点では見つかっていません。

サンプル数が少なく、個体差や育て方・環境の影響を強く受けます。「傾向として」読んでいただき、「うちの子に必ずそうなる」とは受け取らないようにしてください。

深刻な恐怖・分離不安・トイレ問題が長引く場合は、ご相談ください。

健康上の不安がある場合も、かかりつけの獣医師にご相談いただくことをお勧めします。


参考文献

  • VCA Animal Hospitals「Italian Greyhound」https://vcahospitals.com/know-your-pet/dog-breeds/italian-greyhound(参照 2026年5月)
  • PetMD「Italian Greyhound」https://www.petmd.com/dog/breeds/italian-greyhound(参照 2026年5月)
  • Duffy DL, Hsu Y, Serpell JA「Breed differences in canine aggression」Applied Animal Behaviour Science, 114(3-4): 441–460(2008年)https://doi.org/10.1016/j.applanim.2008.04.006(C-BARQデータの代表的な公開研究)
  • C-BARQ(Canine Behavioral Assessment & Research Questionnaire)ペンシルベニア大学獣医学部 https://vetapps.vet.upenn.edu/cbarq/(参照 2026年5月)
  • Harasen G「Radius and ulna fractures in toy breeds」Canadian Veterinary Journal, 44(2): 91–92(2003年)PMC340379
  • Harasen G「Toy breed orthopedics」Canadian Veterinary Journal, 53(8): 817–818(2012年)PMC3354833
  • Mid Atlantic Italian Greyhound Rescue「Housetraining」https://www.midatlanticiggyrescue.com/ig-helptraining/housetraining/(参照 2026年5月)
  • Italian Greyhound Rescue Charity (UK)「Temperament」https://italiangreyhoundrescuecharity.org.uk/about-italian-greyhounds/temperament/(参照 2026年5月)

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