イタグレ イタグレ学

イタリアングレーハウンドとは|性格・大きさ・寿命・値段をブリーダーが解説

「グレーハウンドの小さい版、ですか?」

見学にいらした方から、よく聞かれる質問です。

その理解は、半分正しくて、半分は違います。

私自身、この犬種に関わる前は同じように思っていました。
名前に「グレーハウンド」と入っているのですから、当然だと思います。

イタリアングレーハウンド。日本では「イタグレ」と呼ばれています。

細い脚、深い胸、大きな瞳。写真で見ると、どこか壊れそうに見えるかもしれません。

でも実際に暮らしてみると、印象はずいぶん変わります。

この記事では、これから迎えることを考えている方に向けて、
大きさ・性格・気をつけたいこと・お金のことを順番に書いていきます。

「かわいい」で終わらせず、迎えたあとに困らないための話を中心にしました。

なお、この記事に出てくる数字は、犬種団体の公式資料、ケネルクラブの統計、ペット保険の集計データなど、出どころをたどれるものだけを使っています。
わからないことは「わからない」と書きます。


目次

イタリアングレーハウンドはどんな犬か

まず、公式に決められていることから。

日本の犬の血統を管理しているJKC(ジャパンケネルクラブ)が採用している、
犬種の基準(犬種標準)をまとめました。

項目内容
犬種名イタリアン・グレーハウンド
原産国イタリア
大きさ体高32〜38cm
体重最高5kg(上限だけが決められています)
毛色ブラック、グレー、イザベラ(淡いベージュ)の単色
性格陽気で、愛情豊かで、従順
グループ10G 視覚ハウンド(=目で獲物を追う猟犬のグループ)
体型体長と体高がほぼ同じ、正方形に収まるシルエット

この表を見て、「あれ?」と思うところが2つあると思います。

ひとつめ。グループが「猟犬」になっています。

イタグレは、書類の上では猟犬なのです。
目で見て追いかけるタイプの狩猟犬、いわゆるサイトハウンドの一員として登録されています。

ただし、これは日本とヨーロッパの分類です。
イギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダでは、
すべて「愛玩犬(トイ)」に分類されています。

カナダの犬種団体は、その理由をはっきり書いています。
1800年代に小型化されて以来、狩りをするには小さすぎる。
狩猟犬らしさは残っているけれど、今は伴侶犬として飼われている、と。

日本の書類上は猟犬、実際は家庭犬。そう理解しておくのがいちばん近いと思います。

ふたつめ。体重が「最高5kg」で終わっています。

これについては、次の章で書きます。


大きさ——「3〜5kg」の3kgには、根拠が見つかりません

決まっているのは上限だけ

イタグレの体重を調べると、たいてい「3〜5kg」と出てきます。

ところが犬種標準に書かれているのは、これだけです。

体高:牡牝共に32〜38cm。体重:牡牝共に最高5kg

上限の5kgだけで、下限はありません。

では「3kg」はどこから来たのか。

日本・ヨーロッパ・イギリス・アメリカ・オーストラリア・カナダ、6つの団体の犬種標準を全部確認しました。
下限を3kgとしている団体は、ひとつもありませんでした。

イギリスとオーストラリアだけが「理想は3.6〜4.5kg」という数字を持っていますが、
3.0kgでもなければ、上限も5kgではありません。

実際、日本の犬図鑑でも書き方が割れています。
ある図鑑は「3kg〜5kg」、別の図鑑は「5kg以下」。後者のほうが、犬種標準に忠実です。

「小さいほど良い」ではありません

ここは大事なところなので、はっきり書きます。

下限がないからといって、小さければ小さいほど良い、という意味ではありません。

犬種標準が決めているのは体高32〜38cmで、しかもこの範囲を外れることは「失格」として明記されています。
31cmでも39cmでも失格です。

極端に小さい子を目指した繁殖は、この犬種のもともと細い骨格を考えると、健康の面でもおすすめできません。

「ティーカップ」「極小」といった言葉を見かけたら、いったん立ち止まってください。

団体ごとの違い(気になる方向け)

団体グループ体高体重
FCI/JKC(日本)猟犬(サイトハウンド)32〜38cm最高5kg(上限のみ)
AKC(アメリカ)愛玩犬(トイ)約33〜38cmが理想規定なし
ケネルクラブ(イギリス)愛玩犬(トイ)32〜38cmが理想3.6〜4.5kgが理想
ANKC(オーストラリア)愛玩犬(トイ)32〜38cmが理想3.6〜4.5kgが理想
CKC(カナダ)愛玩犬(トイ)33〜38cm規定なし

体重の扱いが、上限だけ・理想の幅・規定なし、の3通りに分かれています。

「イタグレの体重は何kgですか」という問いに、世界共通の答えはありません。

グレーハウンドの小型版なのか

冒頭の質問に戻ります。

ここも、団体によって説明が違います。

イギリスの基準は「ミニチュア版のグレーハウンド」と書き、カナダは「見た目が似ている」と書き、アメリカは「別犬種」と書いています。
そして日本・ヨーロッパの基準は、この表現を使いません。

FCIの正式名称は `Piccolo Levriero Italiano`。
直訳すると「小さなイタリアの猟犬」で、
「グレーハウンド」という語がそもそも入っていません

歴史の説明も「グレーハウンドを小さくした」ではなく、
「もともと小さかったサイトハウンドの子孫」となっています。

つまり——見た目を言い表すときに「ミニチュアのグレーハウンド」と表現されることはあるけれど、
グレーハウンドを小型化して作られた犬種ではない、というのが正確なところです。

ちなみに日本では、そもそも本家のグレーハウンドがほとんどいません。
JKCの登録頭数を見ると、2019年に全国で1頭、それ以外の年は登録が現れないほどです。

日本で「グレーハウンド」として見かける犬は、ほぼすべてイタグレ、というのが実情です。


毛色——人気の色と、基準の色は違います

基準で認められているのは3色の単色だけ

犬種標準が認めているのは、ブラック・グレー・イザベラ(淡いベージュ)の単色のみ。白は胸と足にだけ許されます。

そして失格事項に、こう書かれています。

多色の被毛。前述の胸と足以外の白。

つまり日本・ヨーロッパの基準では、胸と足以外に白いところがある子(いわゆるパイド)は失格です。ブリンドルも認められません。

日本ではパイドの子がとても人気ですし、実際にかわいい。

だからこそ、ここは誤解のないように書きます。

失格というのは、ドッグショーの審査での話です。

家庭で暮らす犬としての価値とは、まったく関係ありません。
健康にも性格にも影響しません。

「うちの子は失格なんだ」と落ち込む必要は、まったくないです。

国によって、まるで逆

団体白斑(パイド)ブリンドル
FCI/JKC(日本)胸と足以外は失格認められない
AKC(アメリカ)制限なし失格
ケネルクラブ(イギリス)認められる認められない
CKC(カナダ)制限なし失格

日本では失格になる白斑が、アメリカでは何の問題もありません。設計思想が正反対です。

6団体で唯一そろっているのは、ブリンドルを認めないという一点だけでした。

ブルーの子は、毛のトラブルに注意

健康に関わる話をひとつ。

ブルー(青みがかったグレー)やブルーフォーンの毛には、色の薄い部分の毛が抜けてくることがあります
色素希釈性脱毛症(CDA)と呼ばれるものです。

ここで、よく引かれる数字について触れておきます。

「薄い色の子の50〜80%が発症する」という話を見かけますが、
これはドーベルマンのデータです。

イタグレについて見つかった数字は、犬種クラブの健康調査で約2,200頭中71頭。桁がまったく違います。

薄い色の子が必ず発症するわけではありません。

ブルーのイタグレに起こりやすい「毛の病気」の話

若い子のマズル(口先)が白くなってくることもあります。
老化と思われがちですが、原因は2つあって、見分け方があります。

若いイタリアングレーハウンドのマズルが白くなる——2つの原因と、見分け方の現実

被毛について、ひとつ正確に

イタグレは「アンダーコート(下毛)のないシングルコート」と説明されることが多く、

実際に触れば下毛がないのは明らかですし、間違いだとは思いません。
ただ「犬種標準にそう書いてある」わけではない、ということだけ、正直に書いておきます。

いずれにせよ毛が薄く、皮膚も薄い。これが後で書く寒さの話につながります。


性格——おだやかで、でも言うことを聞くとは限らない

公式には「陽気・愛情豊か・従順」

犬種標準が定めている性格は、たった3語です。

陽気で、愛情豊かで、従順である。

ここでひとつ、日本語のイタグレ紹介でよく見る「控えめ」という表現について。

これは古い基準の言葉です。 2015年の改訂で「陽気」に変わっています。
それでも、いまだに古いほうを引用しているサイトがたくさんあります。

実際のところ、どんな子が多いのか

正直に書きます。イタグレの性格を科学的に調べた研究は、ほとんどありません。

犬の性格を犬種ごとに比べた大きな研究はいくつもあるのですが、
イタグレはデータに入っていても「イタグレの結果」としては公表されていないことが多いのです。

そのなかで、イタグレの結果が出ている研究が2本だけあります。どちらも日本発でした。

ひとつは、日本の獣医師96人が56犬種の行動を評価した調査。
イタグレが登場した3項目は、すべて「低い側」でした。

行動イタグレの評価(7段階)
他の犬への攻撃性2.2(低いほうから4番目)
縄張りを守ろうとする傾向2.0(低いほうから3番目)
家の物を壊す行動1.8(56犬種で最も低い)

家の物を壊す行動が56犬種で最下位、というのは意外に思われるかもしれません。

もうひとつは日米のアンケートを比べた研究で、
こちらでは「留守番のときの不安が低いグループ」には入りませんでした。

私の実感とも、そう遠くありません。攻撃的な子はまず見かけない。ただし、繊細です。

他人には、少しよそよそしい

これは公的な裏付けがあります。

イギリスの犬種基準そのものに「よそよそしく見えることがある」と書かれています。

アメリカの犬種クラブの資料も、こう説明しています。

この犬種のいちばん際立った特徴は、愛情深さである。飼い主と家族といるときが最も幸せで、そのぶん見知らぬ人にはいくぶんよそよそしく見えることがある

人が嫌いなわけではありません。
ただ、初対面の人にいきなり飛びついていくタイプではない、ということです。

ちなみにアメリカのAKCは「見知らぬ人への親しみやすさ」を5段階の5(最高)と評価していて、
ここは情報源によって見解が割れています。

私の見てきた範囲では、イギリスの基準のほうが実感に近いです。

しつけについて

アメリカの犬種クラブの資料に、この犬をよく言い表した一文があります。

彼らは問題解決が得意で、覚えるのも早い。ただし、言うことを聞くこととあなたを好きなことを、同じだとは思っていない。

賢くないのではありません。「従うこと」と「好きなこと」を別々に扱う、ということです。

しつけが難しいかどうかは、専門機関でも意見が分かれています。
「難しいことがある」とする団体もあれば、
「他の犬種より難しいということはない」とはっきり否定している団体もあります。

一致しているのは方法のほうです。
叱って教えるやり方は、この犬種にはうまくいきません。 どの団体もそろって、褒めて教える方法を勧めています。

雷や大きな音を怖がる子への向き合い方は、別記事にまとめました。

梅雨のイタグレお世話まるごとガイド——雷・震えを乗り越えるために

「犬種で性格は決まらない」という研究があります

最後に、性格の話全体にかかる前提を。

2022年に発表された大きな研究が、こう結論しています。

犬種で説明できるのは、その子の行動のばらつきのうち9%だけ。

つまり残りの91%は、育った環境と、その子自身の個性です。

イギリスのイタグレのクラブも「この犬種の性格を一般化するのは難しい」と書いていますし、
別のクラブは神経質かと問われて「イエスでもありノーでもある。ばらばらです」と答えています。

ここから先に書くことも、すべて「傾向」の話として読んでください。


迎える前に知っておきたい3つのこと

ここからが、この記事でいちばん読んでほしい部分です。

① 骨折——特に、最初の1年

イタグレを迎えるなら、これだけは知っておいてください。

日本のペット保険大手が公表しているイタグレ4,597頭のデータで、
「他の犬種に比べてかかりやすい病気」の1位と2位が、どちらも骨折でした。

部位他犬種と比べて年間の治療費(平均)いちばん多い年齢
前あし約8倍約29万円0歳
その他の部位約12倍約10万円0歳

数字が大きいので、もう一度書きます。前あしの骨折の治療費は、平均で約29万円。

そしていちばん多いのは0歳、つまり子犬の時期です。

国内の動物病院が公表している300例のまとめでも、同じ傾向が出ています。
骨折したときの年齢は2歳以下が8割、特に生後4か月から10か月に多い、と。

迎えてから最初の1年が、いちばん危ないということです。

どうやって折れているのか

「激しく走らせたから」ではありません。

小型犬の前あし骨折17例を調べた報告では、原因はこうでした。

  • 飼い主さんの腕から落ちた
  • ベッドやソファなど、低いところから飛び降りた
  • ほかの犬と遊んでいた

すべて「ちょっとしたこと」です。

だから対策も、特別なことではありません。

  • 抱っこは低い姿勢で。立ったまま抱き上げない
  • ソファやベッドから飛び降りさせない(スロープやステップを置く)
  • フローリングは滑るので、マットやカーペットを敷く
  • 体格差のある活発な犬との激しい遊びは、様子を見ながら

「走らせないと骨が弱くなる」は本当か

イタグレの飼い主さんの間で、よく言われる話です。私も気になっていました。

調べてみると、この話の出どころは、根拠を示していない海外の商業サイトでした。 ケネルクラブも、
獣医団体も、犬種クラブも、この主張をしていません。

そしてイタグレを含む唯一の骨密度の研究は、逆の結論でした。
骨の細い犬のほうがむしろ骨密度は高い傾向にあり、
運動と骨の差の関連はほとんど見つからなかった、というものです。

もちろん、まったく動かさなければ骨は弱ります。
ただしその研究の条件は「16週間ギプスで完全に固定する」というもので、
普通に散歩している家庭犬とは話が違います。

データが支持している予防策は、「走らせること」ではなく「落とさないこと」です。

イタグレの運動管理——「走らせない」が骨を弱くするは本当か

イタリアングレーハウンドの骨折治療と3D技術

イタグレにペット保険は必要?骨折30万円の現実と”後悔しない”判断材料

② 寒さ——気温より、濡れることに気をつける

毛が短く、体も小さい。体温はどうしても逃げやすい犬種です。

アメリカのAKCも「短毛で体脂肪の少ない犬種なので、寒い時期には特別な配慮が必要」としています。

ここで、正直に書いておきたいことがあります。

「何℃から服を着せるべきか」を示した公的な数字は、見つかりませんでした。

よく引かれる「犬の適温は10〜26℃」という数字も、ヨーロッパの食品安全機関が2023年に「科学的な根拠は不十分」と評価しています。
犬種や体型の差が大きすぎて、すべての犬に共通する適温は示せない、というのがその理由です。

では何を目安にするか。ひとつ実用的な道具があります。

アメリカの獣医療の現場で使われている、気温と体格から犬のリスクを点数化する表です。
そこにはこんな補正が入っています。

  • 小型犬なら +1点
  • 雨やみぞれの中にいるなら +2点
  • 寒さに慣れている犬なら −1点
  • 良い寝床があるなら −1点

つまり同じ気温でも、イタグレはリスクが高く出る。そして雨は、気温以上に効くという設計です。

アメリカの犬種クラブも、面白い書き方をしています。

雪の中で跳ね回るのは気にしないようだが、顔に雨が当たるのを嫌う。

日本の冬に置き換えるなら、「乾いた寒さより、濡れる寒さ」。
雨の日の散歩をどうするかを先に考えておくと、実務的です。

服は着せたほうがいいのか

よく聞かれます。

エビデンスの話をすると、「犬の服が寒い場所で体温を保つ」ことを確かめた研究は、実は存在しません。 逆に「服は過熱するから害だ」という主張にも、根拠となる研究はありません。

つまり、科学的な決着はどちらの向きにもついていない、というのが現状です。

言えるのは、獣医団体も動物福祉団体も、そろって毛の薄い犬に防寒着を勧めているということまでです。

そのうえで実務的なアドバイスを。イギリスの獣医慈善団体が、こう書いています。

服を噛んだり、掻いたり、床や家具に体をこすりつけるなら、それはサイズが合っていないか、不快であるサインです。

イタグレに洋服は必要?

③ 留守番とトイレ——ここは覚悟がいります

トイレは、正直に言うと難しいことがあります

「イタグレはトイレを覚えない」という話は、俗説ではありません。
犬種クラブも動物病院も言及しています。
アメリカのレスキュー団体は「トイレができないことが、イタグレが手放される理由の第1位」とまで書いています。

ただ、ここには続きがあります。

犬種クラブの原文には「日中に家に誰もいない場合は」という条件が付いています。 この部分は、
引用されるときによく抜け落ちています。

そしてもうひとつ。日本の調査では、トイレのしつけやすさは13の行動のなかで犬種による差がいちばん小さい項目でした。 イタグレは「しつけやすい犬種」にも「しつけにくい犬種」にも入っていません。

さらに別の研究では、留守中の粗相は、犬種より体の小ささのほうが強く関係していることが示されています。
イタグレの体高は35cm前後。小さい犬に共通する傾向、という可能性が高いのです。

まとめると、こうなります。

難しいという声が多いのは事実。
ただしそれは「イタグレだから」というより、
体が小さいこと・日中の在宅時間・その子の個性のほうが効いている。

在宅時間が取れるかどうかは、迎える前に考えておいてください。


寿命とかかりやすい病気

平均寿命は14.5歳——犬全体より長生きです

意外に思われるかもしれません。

平均寿命
イタリアングレーハウンド14.5歳
犬全体14.2歳

日本のペット保険大手が公表している2022年度の数字です。

「細くて弱そう」という見た目の印象とは、逆の結果になっています。

なお、これはペット保険に入っている犬のデータで、生まれた時点からの平均です。
無事に成犬まで育った子は、もう少し長くなります。

海外の統計も参考までに。フィンランドの記録では、老衰で亡くなった子の平均は13年9か月でした。

「体が弱い犬種」ではありません

ここが、この記事でいちばん意外な部分かもしれません。

骨折は確かに多い。でも、それ以外は平均並みか、むしろ丈夫なのです。

イタグレ犬全体
筋肉・骨・関節の病気ぜんぶ8.9%10.6%
心臓・血管の病気2.3%4.6%

さらに「他の犬種よりかかりにくい病気」の上位には、こんな並びです。

病気他犬種と比べて
心臓の弁膜症0.36倍
椎間板ヘルニア0.41倍

1倍を下回るのは「平均より起きにくい」という意味です。
心臓も、椎間板ヘルニアも、イタグレは平均より少ない。

「イタグレは体が弱い」という言い方は、データに照らすと正確ではありません。

弱いのは体全体ではなく、前あしの骨にピンポイント。そう理解するのが正しいです。

てんかんは、知っておいたほうがいい

あまり語られませんが、データではっきり出ています。

他犬種と比べていちばん多い年齢
てんかん約3.1倍9歳
けいれん発作(原因不明)約2.9倍2歳

神経の病気全体でも、犬全体の2倍以上です。

もし発作らしきものを見たら、あわてずに動画を撮ってください。 動物病院での診断に、とても役立ちます。

歯周病——ただし「エナメル質が弱いから」ではありません

歯周病は、他の犬種より約1.7倍多いという結果が出ています。
いちばん多いのは12歳。歯・口の病気全体でも、犬全体の約1.8倍です。

スウェーデンの犬種クラブの健康調査でも、健康問題の1位は「歯」でした。
国も調査方法も違うのに、同じ方向を向いています。

ここで、よく見る説明を訂正させてください。

イタグレには歯のエナメル質がうまく作られない遺伝的な体質があり、14%の子に見られます。
そのため「エナメル質が弱いから歯周病になる」と説明されることがあります。

ですが研究機関は、この関連をはっきり否定しています。 「エナメル質の問題と歯周炎に関連は認められない」と明記されています。

どちらもあるけれど、別々の問題。片方がもう片方の原因ではありません。

いずれにせよ、歯のケアは必要です。

イタグレ・日本スピッツの歯の病気が「命に関わる」理由

遺伝性の病気——3つは検査でわかります

子犬を迎える方に、いちばん知っておいてほしい部分です。

イタグレには、遺伝子検査で調べられる病気が3つあります。

病気どんな病気かデータ
進行性網膜萎縮(PRA)目の奥の膜が少しずつ壊れ、見えなくなる。痛みはないかかるのは2〜4%。平均6.5歳で診断
原発閉塞隅角緑内障(PCAG)目の中の水の出口がふさがり、眼圧が急上昇する平均3.9歳と若い。突然起きて激しく痛む
家族性エナメル質形成不全歯の表面がうまく作られない14%がかかり、30%が保因者

緑内障については、ひとつ実務的なことを。

この病気は突然起きて、激しく痛みます。 放っておくと失明します。
目が赤い、痛がる、様子がおかしい——そんなときは様子見をせず、すぐ受診してください。

なお進行性網膜萎縮の検査は「大丈夫/保因者/発症する」の3択ではなく、リスクの高さを段階で示すタイプです。
高リスクと出ても必ず発症するわけではありません。

もうひとつ、繁殖に関わる話を書いておきます。

イタグレでは、複数の自己免疫の病気が重なって出ることが報告されています。
原因遺伝子はまだ特定されていませんが、研究が示しているのは、
近い血縁での交配を重ねて遺伝的な幅が狭くなることが、リスクと関係しているということです。

アメリカの犬種クラブが推奨する検査に「遺伝的多様性の検査」が入っているのは、そのためです。

麻酔——説明が古いまま出回っています

「サイトハウンドは体脂肪が少ないから麻酔が覚めにくい」という説明を、
よく見かけます。私もそう理解していました。

この説明は、すでに更新されています。

本当の理由は体脂肪ではなく、肝臓で麻酔薬を分解する酵素が少ないことでした。
研究によって、当初の体脂肪説から書き換えられています。

そしてイタグレも、その体質に関わる遺伝子型を持っていることが確認されています。
「大型のグレーハウンドの話だから関係ない」ではありません。

実務的な結論はシンプルです。避妊・去勢や歯石除去で麻酔をかけるとき、サイトハウンドであることを獣医師に伝えてください。

イタグレ・スピッツの避妊・去勢手術|迷っている方へ

健康診断の数値も、ふつうの犬とは違います

これはあまり知られていません。

健康なイタグレ58頭の血液検査を調べた研究が、こう結論しています。
教科書に載っている一般的な犬の基準値は、イタグレにはそのまま当てはまらない。

赤血球の項目やアルブミン、カルシウム、鉄などで、ずれが出ます。

つまり健康なのに「異常」と判定されることがありうる、ということです。
健康診断で気になる数値が出たときは、この話を思い出してください。

膝蓋骨脱臼(パテラ)については、わかりません

イタグレのかかりやすい病気として、膝のお皿がずれる「膝蓋骨脱臼」が挙げられていることがあります。

日本のペット保険のデータでは、かかりやすい病気の上位15位に入っていません。 他の小型犬ではよく登場する病気なので、
相対的には目立たないと言えそうです。

ただし——上位に入っていないことは、「リスクがない」ことの証明ではありません。
実際、アメリカの犬種クラブは膝の検査を推奨しています。

正確に書くなら、「高いという裏付けは見つからないが、ないと証明されたわけでもない」というところです。

イタグレよくある病気とケガ、予防のコツ

子犬を迎えるとき、ブリーダーに聞くとよいこと

  • 両親犬の遺伝子検査をしているか、結果を見せてもらえるか
  • 見学のとき、母犬に会わせてもらえるか
  • 子犬の時期の骨折について、迎えたあとの注意を説明してもらえるか
  • 生まれた子のその後に、どこまで関わってくれるか

聞きにくいと感じるかもしれませんが、ブリーダー側からすると、
こうした質問をしてくださる方はありがたい存在です。少なくとも私はそうです。


毎日のお世話

お手入れはラクなほうです

短毛なので、被毛の手入れはほとんど手間がかかりません。
イギリスのケネルクラブが示すブラッシングの目安は週1回。換毛期の大仕事もありません。

その代わり気をつけるのがです。口先が細く、歯が密集しやすい構造をしています。

爪も伸ばさないでください。爪が長いと足の着き方が変わって、細い脚に余計な負担がかかります。

運動は「短く全力、しっかり休む」

情報源目安
ケネルクラブ(イギリス)1日最大1時間
PDSA(イギリスの獣医慈善団体)1日1時間程度
AKC(アメリカ)数値は示していない

1日30分〜1時間が目安です。

ただし、この数字は経験則であって、研究で確かめられたものではありません。
「研究によれば1時間」と書かれているのを見かけたら、それは正確ではないです。

量より大事なのは、走り方のほうです。

サイトハウンドの筋肉は、そのほとんどが瞬発力を担う筋肉でできています。
持久走ではなく、短距離走の体です。

どのくらい極端かというと、100m走っただけで血中の乳酸が約5倍に跳ね上がります。
心拍数は10分ほどで戻りますが、乳酸と体温は10分では戻りません

だから、長い距離をだらだら歩かせるより、
安全な場所で思い切り走らせて、しっかり休ませるほうが、この体には合っています。

(なおこのデータは大型のグレーハウンドのもので、イタグレで測った研究は見つかりませんでした。
同じサイトハウンドだから当てはまるだろう、という推測です)

ノーリードは、絶対にやめてください

サイトハウンドは、目で見て動くものを追う犬です。

追い始めたら呼び戻しは効きません。しかも速い。

「うちの子は呼べば戻るからノーリードでOK」——その思い込みが招く取り返しのつかない事故


値段と、迎え方

相場は「何を数えたか」でまるで違います

まず、いちばん大事な注意点から。

情報源金額何の数字か
みんなの犬図鑑平均 約21万円(最高36万円/最低8万円)実際に売れた価格(直近3か月)
ペットミー平均 約24万円いま売りに出ている価格(180件・2026年7月)
いぬのきもち犬図鑑29万円〜編集部がペットショップ等を調査(2026年5月)

同じ犬種なのに、21万円と29万円が並びます。

これは誰かが間違えているのではなく、数えているものが違うからです。

  • 売れた価格は、実際に取引が成立した金額
  • 売りに出ている価格は、売れ残っている高額な子も含まれる
  • 編集部調査は、ペットショップの店頭価格も含む

ブリーダーから直接迎えるときの目安として現実的なのは、約21万円という数字です。

価格を調べるときは、「いつの時点の、何の数字か」を必ず確認してください。

何で値段が変わるのか

一般には、血統・毛色・体の大きさ・月齢などで変わるとされています。

イタグレの場合、ここが少し複雑です。
前に書いたとおり、日本で人気の毛色と、犬種標準が定める毛色は一致していません。 「人気があるから高い」という力と、
「基準に近いから高い」という力が、必ずしも同じ方向を向かないのです。

月齢についても、ひとこと書かせてください。

日齢が進むほど価格が下がるのが業界の一般的な傾向です。
市場としてはそうなのですが、生後2か月の子と生後6か月の子で、
その子の価値が変わるわけではありません。

私はここに、この業界のゆがみのひとつがあると思っています。

迎える方法は3つ

ペットショップ、ブリーダー、里親(保護犬)。それぞれに良さと難しさがあります。

ブリーダーである私の立場を明かしたうえで、正直に書いた記事があります。

ペットショップ vs ブリーダー vs 保護犬——どっから犬を迎えたらいい??

迎える前にそろえるものは、こちらに。

【保存版】イタリアングレーハウンドお迎え前の準備ガイド

そして、飼いやすいのかどうか

この問いには、専用の記事で正面から答えています。

結論だけ書くと、ラーテルの評価は「2種類の難しさがある」というものです。

体は繊細で、骨折という具体的なリスクがある。
一方で気質はおだやかで、攻撃性は低い。
この2つはまったく性質の違う難しさなので、分けて考える必要があります。

イタグレは飼育しやすいのか——「2種類の難しさ」で出す結論


少しだけ、歴史の話

数字の話が続いたので、最後に読み物を。

この犬種は、歴史そのものが特徴のような犬です。

犬種標準の歴史の記述が、少し変わっています。

小型のイタリアン・サイトハウンドは、古代エジプトのファラオの宮廷にすでに存在していた小型のサイトハウンドの末裔である。壺や鉢に多数の姿が残るギリシャを経て、紀元前5世紀の初めにイタリアへ到達した。最盛期はルネサンス期の貴族の宮廷においてであった。

犬種標準が「紀元前5世紀」と書いている犬は、そう多くありません。

ルネサンス期には巨匠たちの絵画に繰り返し描かれました。
犬種標準にも「偉大な画家の絵の中にこの犬を見つけることは稀ではない」と書かれているほどです。

「うちの犬の祖先は古代エジプトにいた」——FCI公式スタンダードが語るイタグレのルーツ

113体の犬骨が語る、古代ローマの小さな犬たち——ポンペイの地下から伝わるもの

ヴィクトリア女王の足元にいた犬が、日本の街を歩き始めるまで

いま、日本に何頭いるのか

「珍しい犬種ですよね」とよく言われます。

これは、もう古い認識です。

登録頭数全犬種中の順位
1999年272頭53位
2009年3,205頭23位
2014年1,776頭25位
2019年3,141頭18位
2025年3,234頭20位

2025年の3,234頭は、たどれる27年間で最多です。 1999年の272頭からは約12倍になりました。

2009年から2014年にかけて減っているのは、
この時期に犬全体の登録数も3割縮んでいるためで、イタグレだけの現象ではありません。

一方2014年以降は、犬全体がほぼ横ばいのなかでイタグレだけが1.8倍になっています。
これは市場ではなく、イタグレ自体の人気が上がっているということです。

同じことがアメリカでも起きていて、人気順位は2017年の74位から2025年には53位まで上がりました。


引退した繁殖犬は、その後どうなるのか

あまり語られないことを、最後に書かせてください。

繁殖に関わった犬は、いつか引退します。
そのあと、その子たちがどうなるのか。
ここを説明しているブリーダーのサイトは、私が探した限りほとんどありません。

ラーテルでは、引退した子には新しい家族を探しています。里親募集という形です。

「何年も一緒に暮らしてきたのに、どうして手放すの?」と聞かれることがあります。もっともな疑問だと思います。

結論だけ書くと、そのほうがその子にとって幸せだからです。

犬舎には常に何頭もの犬がいて、一頭あたりに割ける時間には限りがあります。
引退したあとの数年間を、自分だけを見てくれる家族と過ごせるなら、そのほうがいい。そう考えています。

賛否はあると思います。だからこそ、考えていることを全部書いた記事を用意しています。

なぜ僕は繁殖引退犬を里親に出すのか

引退犬の”その後”を隠すブリーダー


よくある質問

Q. イタリアングレーハウンドはどこの国の犬ですか?

イタリアです。ただしルーツは古代エジプトの宮廷にいた小型の猟犬で、
ギリシャを経て紀元前5世紀ごろイタリアに入ったとされています。

Q. グレーハウンドの小型版ですか?

団体によって説明が違います。「ミニチュア版」と書く団体もあれば、「別犬種」と書く団体もあります。
日本・ヨーロッパの基準はその表現を使わず、正式名称にも「グレーハウンド」の語は入っていません。

Q. 小型犬ですか、中型犬ですか?

体高32〜38cmで、一般には小型犬です。
ただし団体の分類は割れていて、日本とヨーロッパでは「猟犬」、
イギリス・アメリカ・オーストラリア・カナダでは「愛玩犬」に分類されています。

Q. 体重は何kgですか?

犬種標準が決めているのは「最高5kg」という上限だけです。
よく見る「3〜5kg」の下限3kgは、6団体の基準のどこにも見つかりませんでした。

Q. 寿命は何歳ですか?

14.5歳です(日本のペット保険の集計・2022年度)。
犬全体の14.2歳より長生きな犬種です。

Q. 骨折しやすいというのは本当ですか?

本当です。前あしの骨折は他犬種の約8倍、治療費は平均で約29万円。
いちばん多いのは0歳です。
原因の多くは抱っこからの落下や、ソファ・ベッドからの飛び降りといった、ちょっとしたことです。

Q. 体が弱い犬種ですか?

いいえ。骨折だけが突出しているだけで、筋肉や骨の病気は全体では犬全体より少なく
心臓の弁膜症や椎間板ヘルニアは平均より起きにくいという結果が出ています。

Q. 走らせないと骨が弱くなりますか?

その話の出どころは、根拠を示していない海外の商業サイトでした。
イタグレを含む骨密度の研究では、むしろ逆の結果が出ています。
大事なのは走らせることより、落とさないことです。

Q. 寒さに弱いですか?服は必要ですか?

毛が短く体も小さいので、熱は逃げやすい犬種です。
ただし「何℃から服が必要か」を示した公的な数字はありません。
獣医団体・福祉団体がそろって毛の薄い犬に防寒着を勧めている、というところまでが言えることです。気温以上に、雨で濡れることに注意してください。

Q. 留守番はできますか?

長時間は向きません。犬種クラブは「クレートなら2〜3時間まで」「犬舎の犬ではない」と書いています。
日中ずっと不在の生活だと、この犬種はしんどいと思います。

Q. トイレは覚えますか?

「難しい」という声は多いです。
ただし犬種クラブの記述には「日中に誰もいない場合は」という条件が付いています。
日本の調査では、トイレのしつけやすさは犬種による差がいちばん小さい項目でした。体の小ささと在宅時間の影響のほうが大きそうです。

Q. しつけは難しいですか?

専門機関でも意見が割れています。
ただし方法については一致していて、叱って教えるやり方はうまくいきません。 褒めて教えてください。

Q. 多頭飼いや、他の犬との相性は?

日本の獣医師96人による調査では、イタグレの他の犬への攻撃性は下から4番目でした。
相性は良いほうです。ただし体格差のある活発な犬との同居は、骨折の観点から慎重に考えてください。

Q. どんな毛色がいますか?

日本の基準ではブラック・グレー・イザベラの単色のみで、白は胸と足だけ。
それ以外の白斑がある子は、犬種標準では失格です。
ただしこれはドッグショーの話で、家庭犬としての価値や健康とは関係ありません。

Q. 値段はいくらですか?

実際に売れた価格の平均は約21万円、売りに出ている価格の平均は約24万円、ペットショップを含めた調査では29万円〜。
何を数えたかで数字がまるで違います。

Q. 英語名は?

Italian Greyhound です。
英語圏では IGIggy と略されます。日本では「イタグレ」です。


まとめ

長くなったので、要点だけ整理します。

大きさ・見た目

  • 体高は32〜38cm。体重は「最高5kg」という上限だけが決まっていて、よく見る「3〜5kg」の下限3kgには根拠が見つかりません
  • 毛色は単色が基準。人気のパイドは、日本の基準ではドッグショーで失格になります(家庭犬としての価値とは無関係です)

性格

  • 攻撃性は低く、家の物を壊す行動は56犬種で最下位という調査結果があります
  • 他人には少しよそよそしい。叱るしつけは向きません
  • ただし犬種で説明できるのは行動の9%だけ。あとはその子次第です

気をつけたいこと

  • 骨折。特に0歳。 前あしで他犬種の約8倍、治療費は平均約29万円。原因は抱っこからの落下など、ちょっとしたことです
  • 寒さ。 気温より、雨で濡れることに注意
  • 長時間の留守番には向きません

健康

  • 平均寿命14.5歳で、犬全体より長生き
  • 骨折以外はむしろ丈夫。心臓も椎間板ヘルニアも平均より少ない
  • てんかんは他犬種の約3倍。遺伝性の病気は3つが検査でわかります

お金

  • 価格の平均は約21万円。ただし「相場」は数え方で大きく変わります

こうして並べてみて改めて思うのは、この犬種ほど、語られ方と実際の数字がずれている犬も珍しいということです。

弱そうに見えて、平均より長生きする。
猟犬に分類されながら、愛玩犬として扱う国のほうが多い。
人気の毛色が、基準では失格になる。「グレーハウンドの小型版」と呼ばれながら、公式名称にその言葉は入っていない。

私にできるのは、確かめられることと確かめられないことを分けて、正直に書くことくらいです。
この記事が、迎えるかどうかを考えている方の役に立てば嬉しく思います。

細い脚で床を蹴って、こちらへまっすぐ走ってくる。走り終えたら、すぐに膝の上で丸くなる。

あの落差を見ていると、この犬種を続けている理由はこれだな、と思います。


参考文献・データ出典

犬種標準(一次資料)

統計・犬種団体資料

遺伝子検査(カリフォルニア大学デービス校 獣医遺伝学研究所)

査読論文

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