スピッツ スピッツ学

日本スピッツとは|性格・大きさ・寿命・値段をブリーダーが解説

「白くてふわふわの、あの犬ですよね。よく吠えるんでしたっけ?」

見学にいらした方から、この2つはほぼ必ず聞かれます。

前半は正しくて、後半は——半分正しくて、半分は昔の話です。

その気持ちはよくわかります。私自身、この犬種に関わる前は同じイメージを持っていました。

「日本スピッツ=白くて、よく鳴く犬」。
テレビでも図鑑でも、長いあいだそう紹介されてきたのですから、当然だと思います。

この記事では、これから迎えることを考えている方に向けて、
大きさ・性格・お手入れ・お金のことを順番に書いていきます。

先に、いちばん大事なことをひとつだけ。

この犬種について世の中に出回っている情報は、驚くほど数字の裏付けが弱いです。

「体重は9〜11kg」。よく見かけますが、犬種の基準にそんな数字は書かれていません。
そもそも体重の規定が存在しないからです。

「よく吠える犬種」。日本スピッツを対象に吠えを測った研究は、
調べた限り1本も見つかりませんでした。

「膝が弱い」。実際に検査したデータを見ると、8割以上が正常でした。

この記事では、犬種の公的な基準、ケネルクラブの統計、査読を経た研究など、出どころをたどれる資料だけを使います。
わからないことは「わからない」と書きます。


目次

日本スピッツはどんな犬か

まず、公式に決められていることから。

項目内容
犬種名日本スピッツ(Japanese Spitz)
原産国日本
大きさ体高 牡30〜38cm(牝は牡よりやや小さい)
体重規定なし
毛色純白のみ
性格利口で、明朗で、感覚が鋭い
グループ5G(原始的な犬・スピッツ)/アジアン・スピッツ
用途家庭犬
FCI公認1964年4月22日

ここで早速、多くの記事が触れていないことがあります。

体重の欄が、空白なのです。

もうひとつ。「日本」の名を持っていますが、日本スピッツは日本犬ではありません。

日本犬とされるのは柴・秋田・甲斐・紀州・四国・北海道の6犬種で、
日本スピッツは含まれません。ルーツが洋犬だからです。

この経緯そのものが面白い話なので、別記事にまとめています。

「日本」の名を持ちながら、日本犬じゃない——それがこの子たちの面白さ


大きさ——「9〜11kg」という数字の出どころ

体重は、どこにも定められていません

日本語の犬種紹介を読むと、たいてい「オス9〜11kg、メス7〜10kg」と書かれています。

ところが、国際的な犬種基準にも、日本のJKCにも、
イギリスにも、カナダにも、体重の規定は一切ありません。

書かれているのは体高だけです。

体高:牡30〜38cm。牝は牡よりやや小さい。

その結果どうなっているかというと、媒体によって数字がばらばらです。

情報源オスの体重
いぬのきもち犬図鑑/ワンクォール9〜11kg
アニコム損保7〜10kg
わんちゃんホンポ/Wikipedia5〜10kg
犬暮らし4〜11kg

下限4kgと上限11kgでは、2.75倍の開きがあります。
同じ犬種の話とは思えない幅です。

これは誰かが間違えているというより、
よりどころになる公的な数字が存在しないため、各媒体が独自に書いているというのが実情だと思います。

体高は、そろっています

一方、体高は「30〜38cm」でほぼ全社が一致しています。犬種基準に明記されているからです。

ただし、これも国によって違います。

団体
FCI/JKC(日本)30〜38cmやや小さい(数値の規定なし
ケネルクラブ(イギリス)34〜37cm30〜34cm
ANKC(オーストラリア)34〜37cm30〜34cm
ニュージーランドKC30〜40cm25〜35cm
UKC(アメリカ)30〜38cm30〜36cm

日本で暮らす犬の話をするなら、JKCの30〜38cmを基準に考えるのが妥当です。

ここでもうひとつ気づくことがあります。
JKCの基準には、牝の具体的な数値が書かれていません。 「やや小さい」としか決まっていないのに、
多くの記事が牝の体重を具体的な数字で書いています。

小型犬なのか、中型犬なのか

「日本スピッツ 小型犬 中型犬」という検索が実際にあります。
当犬舎のブログでも、記事によって表記が揺れていました。

正直に書きます。

体高30〜38cmという数字は、一般的な区分でいえば小型犬の上限から中型犬の下限にまたがるサイズです。

犬種基準で比べると、柴犬は牡39.5cm、ポメラニアンは21cm。
柴犬よりわずかに小さく、ポメラニアンよりはっきり大きいという位置づけになります。

つまり「どちらとも言い切れない中間」というのが、数字に忠実な答えです。

ペット可物件の「小型犬まで」という条件に当てはまるかどうかは、
体重ではなく管理会社の判断基準次第なので、必ず個別に確認してください。


性格と、「よく吠える」という評判

犬種基準が定めている気質

日本スピッツの気質は、こう定められています。

利口で、明朗で、感覚が鋭い。喧騒であってはならない。

イギリスの基準は少し表現が違い、「機敏、利口、大胆、活発」に加えて「初対面の人にはやや慎重」と書かれています。

この「初対面にやや慎重」という記述は、実際の印象とよく合っています。
人が好きな犬種ですが、初めて会う人にいきなり飛びついていくタイプではありません。

吠えについて、正直に書きます

ここは、この記事でいちばん誠実に書きたい部分です。

日本スピッツを個別の犬種として含む行動学の研究は、1本も見つかりませんでした。

犬の行動を犬種ごとに比較した大規模な研究はいくつもあります。ですが——

研究の規模日本スピッツ
日米比較・59犬種含まれず
49犬種・8,301頭含まれず
101犬種・14,020頭含まれず
78犬種(2022年・大規模ゲノム研究)含まれず

いずれも欧米・日本の大規模な飼い主アンケートが母数なので、頭数の少ない日本スピッツは統計に耐えるサンプルが集まらないのです。
日本語の学術データベースでも見つかりませんでした。

さらに言うと、こうした研究で使われる行動評価の質問票には、
そもそも「吠えやすさ」という独立した項目がありません。

ですから、「日本スピッツは吠えやすさランキング◯位」といった記述を見かけたら、
その数字には根拠がないと考えて差し支えありません。

唯一見つかった数値

現存する唯一の量的なデータは、フィンランドの日本スピッツ犬種クラブが実施した飼い主アンケートでした。

項目
吠えやすい15%40%
無駄吠えがある21%28%

同じ調査で、35%が音を怖がるという結果も出ています。
クラブはこれを「この犬種の気質上の最大の課題」とし、
音への過敏さは遺伝するため繁殖犬の選定で注意が必要だと結論づけています。

一方で、日常生活を「扱いやすい」と評価した飼い主は80%でした。

ただしこれは回答者120人ほどの任意アンケートで、しかもフィンランド1国のデータです。
「日本スピッツの4分の1は無駄吠えする」と一般化はできません。

言えるのはここまでです。吠える個体は一定の割合でいる。牝のほうがやや多い傾向がある。

「昔よりおとなしくなった」は本当か

ここも正直に書きます。

「その後の選択繁殖で吠えなくなった」ことを示すデータは、存在しません。

犬種基準が「喧騒であってはならない」と定めている事実は、ブリーダーがそう努力してきた意図の証拠にはなります。
でも結果を示す前後比較のデータは、私が調べた限り見当たりませんでした。

もう少し補足すると、この「吠え」に関する記述は日本とヨーロッパの基準にはありますが、
イギリス・オーストラリア・カナダの基準には一切ありません。

しかも、うるささは減点であって失格ではありません。 失格になるのは、
攻撃性・極度の臆病さ・垂れ耳・背に乗らない尾の4つだけです。

「犬種基準に吠えないと書いてあるから吠えない犬種だ」という説明を見かけますが、これは論理が飛んでいます。
減点対象に指定されているということは、むしろその問題が存在することが前提なのですから。

では、なぜ「うるさい犬」というイメージが定着したのか。
それは昭和の歴史の話なので、この記事の後半に書きました。

「うるさい犬」の真相と現代のスピッツ

犬種で、その子の性格は決まりません

最後に、性格の話全体にかかる前提を。

2022年に発表された大きな研究が、こう結論しています。

犬種で説明できるのは、その子の行動のばらつきのうち9%だけ。

つまり残りの91%は、育った環境と、その子自身の個性です。

犬種の傾向は、あくまで傾向。目の前の1頭がどうかは、育て方とその子次第です。


迎える前に知っておきたいこと

日本スピッツを迎えるなら、ここが判断の分かれ目になります。

① 白い被毛の手入れ

この犬種を選べるかどうかは、正直に言ってここで決まります。

短毛の犬とは、手間の量がまるで違います。

ブラッシングの目安は、情報源によってかなり違います。

情報源推奨
PDSA(イギリスの獣医慈善団体)毎日
ケネルクラブ(イギリス)週1回以上
PetMD(獣医師執筆)年間の大半は最小限、換毛期のみ毎日

日本語のブログでよく見る「週2〜3回」という数字は、たどれる一次情報が見つかりませんでした。

実務的には、通常期と換毛期を分けて考えるのが現実的です。
通常期は毛玉ができない程度に定期的に、換毛期はほぼ毎日。
これが結局いちばん破綻しない考え方だと思います。

日本スピッツのブラッシングガイド|正しいケアと道具の選び方

② 換毛期

年に2回、春と秋に、下毛をまるごと入れ替えます。集中する時期は2〜3週間ほどです。

この期間の抜け方は、初めて経験する方はかなり驚かれます。

ブラシをかけるたびに、もう1頭分の毛が取れるのではないかと思うほどです。

日本スピッツはどうしてこんなに毛が抜けるのか

③ 夏の暑さ

北方系のスピッツですから、暑さは得意ではありません。

ここで具体的な数字を書いておきます。

ラーテルでは夏場(5月〜9月頃)はエアコンを24時間つけ、室温23〜25℃・湿度50%前後を目安にしています。

湿度が60%を超えると、パンティング(ハアハアという呼吸による体温調節)の効率が落ちるためです。

「熱中症に気をつけましょう」で終わっている情報が多いので、目安の数字として使ってください。

なお、厚い被毛が熱中症リスクを高める可能性は、イギリスの大規模な調査(約90万頭)で示唆されています。
ただし日本スピッツはこの解析の対象に含まれていません。

日本スピッツの夏支度|暑さ対策と熱中症リスク

白いのに、汚れないのか

よく聞かれます。

イギリスの日本スピッツクラブは、この犬種の被毛には自浄性(汚れが自然に落ちる性質)があり、他の白い犬種と違って脂っぽくなりにくいと説明しています。
乾けば汚れが落ちるか、ブラシで簡単に取れる。
「テフロンに例えられることもある」という表現まで使っています。

実際に暮らしていると、この説明にはうなずけるところがあります。
雨の日に泥がついても、乾かしてブラシをかければ驚くほど落ちます。

ただし、これは犬種クラブの経験から言われていることで、測定されたデータではありません。 そこは正直に書いておきます。

目の周りの汚れ(涙やけ)については、白い被毛では目立ちやすいという別の問題があります。

日本スピッツの「涙やけ」を解説


寿命とかかりやすい病気

平均寿命は13.3歳

情報源数値データの性質
アニコム損保13.3歳日本のペット保険契約データ
(参考)犬全体14.1歳同上
フィンランドの死亡統計11年0か月登録された死亡例の平均年齢(541頭)

犬全体の平均が14.1歳なので、それよりやや短い位置づけです。

フィンランドの11年0か月という数字は「平均寿命」ではなく「死亡例の平均年齢」で、事故死や若齢での死亡を含むため低く出ています。
同じ統計を死因別に見ると、老衰で亡くなった175頭の平均は13年5か月でした。

膝蓋骨脱臼(パテラ)——「なりやすい」は言い過ぎです

小型犬の話でほぼ必ず出てくるのが膝蓋骨脱臼、いわゆるパテラです。
日本スピッツも「かかりやすい犬種」として紹介されることが多くあります。

ですが、実際に検査したデータを見ると、印象が変わります。

フィンランドで924頭の膝を公式に検査した結果です。

状態割合
正常81%
1度14%
2度5%
3度・4度1%

スウェーデンの検査でも、正常90%・1度8%・2度2%という結果でした。

さらに、日本国内で行われた膝蓋骨脱臼130例の症例研究を見ると、日本スピッツは犬種リストに登場しません(トイプードル43例、
チワワ33例、雑種18例、ヨークシャーテリア9例、ポメラニアン6例)。

これらを合わせると、「日本スピッツは膝蓋骨脱臼になりやすい犬種だ」という言い方は、データに照らして強すぎます。

正確に言うなら、「小型犬全般に多い疾患で、日本スピッツでも一定の割合でみられる」というところです。

もちろん、8割が正常ということは2割弱には何らかの所見があるということでもあります。
滑る床を避ける、体重を管理する、といった基本的な配慮は変わらず大切です。

そのほか、知っておきたいこと

若い日本スピッツで気胸(肺から空気が漏れる状態)を繰り返した4頭の症例報告が2024年に出ています。
生後5〜11か月で発症し、手術後も全例が再発したという厳しい内容です。

ただし4頭の症例報告であり、どのくらいの頻度で起きるのかを示すデータではありません。 過度に心配する必要はありませんが、
若い犬が急に苦しそうな呼吸をしたら、すぐに受診してください。

日本スピッツのかかりやすい病気・ケガと予防のコツ

日本スピッツにペット保険は必要?

イタグレ・日本スピッツの歯の病気が「命に関わる」理由

子犬を迎えるとき、ブリーダーに聞くとよいこと

  • 両親犬の遺伝子検査を実施しているか、結果を見せてもらえるか
  • 両親犬の健康状態を確認しているか
  • 見学のとき、母犬に会わせてもらえるか
  • 生まれた子のその後について、どこまで関わってくれるか

聞きにくいと感じるかもしれませんが、ブリーダー側からすると、
こうした質問をしてくださる方はありがたい存在です。少なくとも私はそうです。


毎日のお世話

サマーカットをすすめない理由——ただし、正確に

夏が近づくと必ず聞かれます。「暑そうだから短くしてあげたい」と。

すすめていません。ただし、その理由については世の中で言われていることと、実際に確かめられていることの間にズレがあるので、正確に書きます。

バリカン後脱毛症(刈ったあとに毛が生えてこなくなる状態)は、実在する病気です。 獣医皮膚科の教科書に独立した章があります。

ただし同じ教科書が、なぜ起きるのかについて「不明」と明記しています。

そして——「二度と生えてこない」というのは言い過ぎです。

教科書の記述はこうです。健康な犬であれば、
大半は1年以内に再生する。 一部の症例では12〜24か月かかる。治療は基本的に不要。

つまり正確には、「数か月から2年、元通りにならない期間が続く可能性がある」ということです。

「刈っても涼しくならない」という説明もよく見かけますし、私もそう考えていますが、
これを実験で検証した犬の研究は見つかりませんでした。 専門機関の見解であって、
試験の結果ではありません。断定は避けます。

では、刈らないほうがいい根拠として何がいちばん強いのか。私は次の2つだと考えています。

  1. 毛質と毛色が永続的に変わる可能性 — 皮膚まで刈ると下毛が速く再生し、成長の遅い上毛を押しのけて、質感も色も変わってしまうことがある
  2. 日焼けと皮膚がんのリスク — 被毛は紫外線を遮っている

なお、中高齢の犬で毛が生えてこない場合は、甲状腺やホルモンの病気が隠れていることがあります。
自己判断せず、必ず受診してください。

日本スピッツにサマーカットは必要?

運動量と散歩

情報源目安
ケネルクラブ(イギリス)1日最大1時間
PDSA1日最大1時間
PetMD1日30〜60分

1日あたり合計30分〜1時間が、公的機関の示す目安です。
朝夕2回に分けるのが一般的です。

ただし、この「1日◯分」という数字に実証研究の裏付けがあるわけではありません。
ケネルクラブのガイダンスは経験則です。

体感としては、運動量が多くて大変という犬種ではありません。 ただし頭がよく、
体もよく動くので、単調な散歩だけだと退屈します。

距離を伸ばすより、においを嗅がせる時間をとったり、
遊びを混ぜたりするほうが満足度が高いように思います。

飼いやすいのかどうか

この問いには、6つの軸で採点した専用の記事で正面から答えています。

結論だけ書くと、ラーテルの評価は「上の下」です。

気質の安全性は高く、しつけも入りやすい。
一方で、白い被毛の手入れという手間を引き受けられるかどうかで評価が大きく変わる犬種です。

日本スピッツは飼いやすい?手入れの手間と向いている人


日本スピッツの値段

相場(2026年7月28日時点)

情報源平均データの性質
みんなのブリーダー約29万円(最高38万円/最低15万円)直近3か月の成約価格
ブリーダーナビ約28.3万円掲載価格
ペットミー約24.9万円掲載価格(2026年6月時点)
いぬのきもち犬図鑑27万円〜編集部調査(2026年5月)

25万〜30万円程度が目安、というのが数字を並べた結論です。

ここで注意点をひとつ。この数字は思っている以上に動きます。

ブリーダーナビの平均価格は、2026年7月14日時点で約32.4万円だったものが、
7月28日時点では約28.3万円になっていました。2週間で4万円です。

掲載されている子犬が入れ替わればそのまま平均が動くので、当然といえば当然です。

価格を調べるときは、必ず「いつの時点の数字か」を確認してください。

何が価格を左右するのか

一般には、血統・顔・毛色・体の大きさ・月齢などで変わるとされています。

日本スピッツの場合、毛色は純白のみなので毛色による差は生じません。
実質的には血統と、犬種基準への近さ、そして月齢が効いてきます。

月齢についても、ひとこと書かせてください。

日齢が進むほど価格が下がるのが業界の一般的な傾向です。
市場原理としてはそうなのですが、生後2か月の子犬と生後6か月の子犬とで、
その子の価値が変わるわけではありません。

私はここに、この業界の歪みのひとつがあると思っています。

迎える方法は3つ

ペットショップ、ブリーダー、里親(保護犬)。それぞれにメリットと難しさがあります。

どこから迎えるのがよいかについては、
ブリーダーである私の立場を明かしたうえで、正直に書いた記事があります。

ペットショップ vs ブリーダー vs 保護犬——どっから犬を迎えたらいい??

迎える前の準備は、こちらにまとめています。

日本スピッツのお迎え準備ガイド


「うるさい犬」と呼ばれた時代

ここからは読み物として。この犬種の場合、
過去に起きたことが、いまのイメージをつくっているからです。

渡来から、犬種として整うまで

日本スピッツのルーツは、1920年頃にシベリア経由で中国東北地方から渡ってきた、
大型の白いジャーマン・スピッツとされています。

1921年頃には東京の展覧会に初めて出陳されました。
1925年にはカナダから2組が輸入され、
1936年頃までカナダ・アメリカ・オーストラリア・中国から輸入した犬を交配して、犬種として整えられていきます。

そして戦後の1948年、JKCが統一の基準を制定。 1964年に国際的に公認されました。

「うるさい」の正体は、犬ではなく時代でした

1950年代後半、日本スピッツは1年間に登録される犬の約4割を占めるほどの大ブームになりました。

問題はこのあとです。

日本スピッツクラブの資料は、当時の状況をこう記録しています。

  • 統一された基準がなく、ただ「小型を良し」とする風潮だった
  • 飛ぶように売れたため、知識のない繁殖が横行した
  • 血統書なしでも売れたため、無籍犬が登録犬の3倍いたと推定される
  • 屋外で鎖につないで飼うのが当たり前で、吠える姿がより印象づけられた

資質を問わずに数を増やし、それを外につないでおけば、どうなるか。想像がつくと思います。

そして「よく吠えるから番犬向き」という紹介文が犬種図鑑に繰り返し書かれ、イメージが固定されていきました。

いま、日本に何頭いるのか

「最近見かけない」「珍しい犬種ですよね」とよく言われます。

これは半分正しくて、半分は古い認識です。

登録頭数全犬種中の順位
2000年1,562頭27位
2010年636頭32位
2015年840頭29位
2024年1,433頭28位
2025年1,467頭28位

底は2010年の636頭でした。
2000年から10年で4割まで減っています。「幻の犬種」と言われたのはこの頃の話です。

ところがそこから、15年かけて2.3倍まで回復しています。

さらに言えば、この間に犬全体の登録数は約39万頭から約30万頭へ減っています。 母数が縮む中で実数を増やしているので、
シェアで見ると3倍以上になった計算です。

「見かけない」という印象は、ブームだった昭和と比べれば確かにその通りです。
でもいまは、静かに増えている犬種というのが数字の示すところです。

毛色と、被毛のつくり

毛色について、ひとつだけ。

犬種基準の毛色の項は、たった2語です。

純白。

黒や茶色の「スピッツ」を見かけることがありますが、それはジャーマン・スピッツやポメラニアンなど、別の犬種です。
日本スピッツに白以外の毛色は認められていません。

被毛は、上毛が直毛で立ち上がり、下毛は短く柔らかく密。典型的なダブルコートです。

顔・耳・前肢の前面・飛節から下は短毛で、
首から肩・前胸にかけては飾り毛(フリル)、尾にも長い飾り毛がつきます。

なぜ日本でこの白い犬がこれほど愛されたのかについては、文化史の視点から別記事を書いています。

なんだか特別な犬【日本スピッツ】——1300年の感性の話

なぜ日本スピッツの尻尾は巻いているのか


引退した繁殖犬は、その後どうなるのか

あまり語られないことを、最後に書かせてください。

繁殖に関わった犬は、いつか引退します。
そのあと、その子たちがどうなるのか。
ここを説明しているブリーダーのサイトは、私が探した限りほとんどありません。

ラーテルでは、引退した子には新しい家族を探しています。 里親募集という形です。

「何年も一緒に暮らしてきたのに、どうして手放すの?」と聞かれることがあります。もっともな疑問だと思います。

結論だけ書くと、そのほうがその子にとって幸せだからです。

犬舎には常に何頭もの犬がいて、どうしても一頭あたりに割ける時間には限りがあります。
引退したあとの数年間を、自分だけを見てくれる家族と過ごせるなら、そのほうがいい。そう考えています。

賛否はあると思います。だからこそ、考えていることを全部書いた記事を用意しています。

なぜ僕は繁殖引退犬を里親に出すのか

引退犬の”その後”を隠すブリーダー


よくある質問

Q. 日本スピッツはどこの国の犬ですか?

日本です。ただしルーツは1920年代に渡来した白いジャーマン・スピッツで、
日本で作られた洋犬という位置づけです。

Q. 日本犬なのですか?

いいえ。日本犬とされるのは柴・秋田・甲斐・紀州・四国・北海道の6犬種で、日本スピッツは含まれません。
天然記念物にも指定されていません。

Q.「スピッツ」と「日本スピッツ」は違う犬ですか?

違います。「スピッツ」はドイツ語で「尖った」を意味する言葉で、口先や耳が尖った北方系の犬種グループ全体を指します。
ジャーマン・スピッツ、ポメラニアン、
サモエドなどが同じグループで、日本スピッツはそのうちのひとつです。

Q. 小型犬ですか、中型犬ですか?

体高30〜38cmで、小型犬の上限から中型犬の下限にまたがるサイズです。
どちらとも言い切れません。ペット可物件の条件に当てはまるかは、管理会社に個別に確認してください。

Q. 体重は何kgですか?

犬種基準に体重の規定がありません。 よく見る「9〜11kg」は媒体ごとの独自の数字で、
情報源によって4〜11kgまで開きがあります。

Q. なぜ最近見かけないのですか?

昭和のブーム期と比べれば少ないのは事実ですが、
登録頭数は2010年の636頭を底に、2025年は1,467頭まで回復しています。 犬全体の登録数が減るなかでの増加なので、シェアでは3倍以上になっています。

Q. 本当に吠えなくなったのですか?

「吠えなくなった」ことを示すデータは存在しません。
犬種基準がうるささを減点対象としている事実はありますが、それは意図の証拠であって結果の証拠ではありません。
フィンランドの飼い主アンケートでは、牝の40%・牡の15%が「吠えやすい」と回答しています。

Q. 白以外の毛色はいますか?

いません。犬種基準で純白のみと定められています。黒や茶のスピッツは別の犬種です。

Q. 抜け毛は多いですか?

多いです。年2回の換毛期は、集中する2〜3週間ほぼ毎日のブラッシングが必要になります。
ここを引き受けられるかどうかが、この犬種を選べるかの分かれ目です。

Q. 暑さに弱いですか?

北方系なので得意ではありません。
ラーテルでは夏場はエアコンを24時間つけ、室温23〜25℃・湿度50%前後を目安にしています。

Q. サマーカットはしてもいいですか?

すすめていません。刈ったあとに毛が生えてこなくなることがあり、大半は1年以内に戻りますが、12〜24か月かかる例もあります。
毛質や毛色が永続的に変わる可能性と、日焼けのリスクもあります。

Q. 外飼いできますか?

すすめません。昭和期に「うるさい」という評判が生まれた背景のひとつが、屋外の鎖飼いという飼育形態でした。
また白い被毛は紫外線と汚れの影響を受けます。室内飼育を前提に考えてください。

Q. マンションや賃貸で飼えますか?

体高30〜38cmというサイズが物件の条件に合うかを、管理会社に確認してください。
吠えについては、個体差と育て方の影響が大きいというのが正直なところです。

Q. 猫や他の犬と一緒に飼えますか?

フィンランドのアンケートでは、牡の61%が他の牡に対して敵対的という結果が出ています(牝どうしでは33%)。
同性の多頭飼いは慎重に検討したほうがよさそうです。
猫との相性について、日本スピッツに限定したデータは見つかりませんでした。

Q. 平均寿命は何歳ですか?

アニコム損保の集計では13.3歳です(犬全体の平均は14.1歳)。

Q. 値段はいくらですか?

25万〜30万円程度が目安です。
ただし2週間で4万円動くこともあるので、いつの時点の数字かを確認してください。

Q. 英語名は?

Japanese Spitz です。


まとめ

長くなったので、要点だけ整理します。

大きさ・見た目

  • 体重は犬種基準に規定がありません。 「9〜11kg」は媒体独自の数字で、情報源によって4〜11kgまで開きがあります
  • 体高は牡30〜38cm。小型犬と中型犬の境目にあたるサイズです
  • 毛色は純白のみ。 黒や茶のスピッツは別の犬種です

性格と吠え

  • 「うるさい犬」という評判は、昭和のブーム期の繁殖と飼育形態がつくったものです
  • ただし「その後改善された」ことを示すデータもありません
  • 犬種で説明できるのは行動の9%だけ。あとはその子次第です

お世話

  • 手入れの負担が、この犬種を選べるかどうかの分かれ目になります
  • 換毛期は年2回、集中する2〜3週間はほぼ毎日
  • サマーカットはすすめません

健康

  • 平均寿命は13.3歳
  • 膝蓋骨脱臼は「なりやすい」と言うほどではありません。 実際の検査では81%が正常でした

お金

  • 25万〜30万円程度。 ただし2週間で4万円動くこともあります

書いていて改めて感じたのは、この犬種はまだ、ちゃんと調べられていないということです。

行動学の研究に含まれず、日本語の学術論文もほとんどない。
だから「よく吠える」というイメージだけが、検証されないまま50年以上残ってきました。

私にできるのは、確かめられることと確かめられないことを分けて、正直に書くことくらいです。
この記事が、迎えるかどうかを考えている方の役に立てば嬉しく思います。

白い被毛の手入れは、正直に言えば手間がかかります。

それでも、朝の光にあたって真っ白に輝いているのを見ると、
この犬種を続けている理由はこれだな、と思います。


参考文献・データ出典

犬種標準(一次資料)

統計・犬種団体資料

査読論文

  • Atencia-Fernandez S, Shiel RE, Mooney CT, Nolan CM (2015). “Muscular dystrophy in the Japanese Spitz: an inversion disrupts the DMD and RPGR genes.” Animal Genetics 46(2):175-184. DOI: 10.1111/age.12266
  • Toh H, et al. (2024). “Recurrent spontaneous pneumothorax in four surgically treated Japanese Spitz dogs.” Veterinary Record Case Reports. DOI: 10.1002/vrc2.868
  • Mizutani I, Nishi R, Murakami M (2023). “Bidirectional Patellar Luxation in Small- or Miniature-Breed Dogs in Japan.” Veterinary Sciences 10(12):692. DOI: 10.3390/vetsci10120692
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