犬の飼い方、誰に聞いたらいいの?——迷ったときの「相談先の地図」

こんにちは、ラーテル犬舎です。

「この子、こんなことしていいの?」
「なんで吠えるんだろう?」
「これ、病気かな?」

犬を迎えると、こういう疑問が毎日のようにやってきます。
初めて迎えた方なら、なおさらです。

そのたびに、スマートフォンで検索したり、SNSで似た事例を探したり。
あるいは、友人や知人に「うちの子、どう思う?」と聞いてみたり。

あるあるだと思います。

ただ、「誰でもいいから早く答えが欲しい」という気持ちが、かえって遠回りになることがある
——そのことを、今日は少し丁寧に話させてください。


目次

相談相手はたくさんいる。でも、「万能な一人」はいない

試しに「犬 噛む なぜ」と検索してみてください。大量の記事が出てきます。

ところが、読み比べると書いてあることが微妙に違う。

「厳しくしつけろ」という記事もあれば、「怒ってはいけない」という記事もある。
どちらが正しいのか、初めての方にはわかりません。

これは、情報を出している人の「立場」と「根拠」がバラバラだからです。

ネット検索やSNSの情報は、すぐに・無料で・大量に手に入ります。
これは間違いなく便利です。

ただ同時に、発信している人の知識レベルや経歴はわかりません。
何十年も前に否定された考え方が、今もシェアされ続けていることもあります。

たとえば「アルファ理論(優位性理論)」という考え方があります。
「犬は群れの序列で動いているから、飼い主がリーダーになって支配しなければならない」というものです。

この考えは、野生ではなく飼育下に集められたオオカミを観察した古い研究から生まれました。

のちに野生オオカミの長期フィールド研究が行われ、この考え方の普及に関わった研究者のL. David Mech自身が、後に「野生の群れは家族単位で動いており、いわゆるアルファ争いは起きにくい」と述べて、過去の説明を訂正しています。

それでも今も、テレビや動画でこの考え方は広まっています。

「だから、ネットはダメ」と言いたいのではありません。
「情報の出所と根拠を確認する目が必要」ということです。

では、どこに相談すればいいのか。整理してみましょう。


「医療」「育て方・犬種」「しつけ」——3つの層で考える

飼い主さんの悩みは、大きく3つに分けられます。

悩みの種類相談する相手
体の不調、病気、ケガ、予防獣医師
基礎的な育て方、犬種のこと、その子の気質ブリーダー(あるいはその子犬を育成した人)
しつけ、問題行動、トレーニングトレーナー

人間に置き換えると、わかりやすいかもしれません。
体調が悪ければ医者へ。勉強でつまずけば先生やコーチへ。

その子の生い立ちや性格を一番知っているのは、親。

犬も、同じ考え方で整理できます。


「体のこと」は、まず獣医師へ

ここは、迷う必要のないところです。

食欲がない、元気がない、突然吠え始めた、急に攻撃的になった——。

こういった「急な変化」は、まず身体的な原因を疑います。

痛みを抱えていると、犬は攻撃的になることがあります。
ホルモンの異常、神経系の疾患が行動の変化として現れることもあります。

ASPCAは、行動の問題が出たときは、まず獣医師に相談して身体的な原因がないかを確認することを、最初のステップとして勧めています。

「しつけの問題かな」と思っていたことが、実は病気のサインだった、ということは決して珍しくありません。

気になることがあれば、まずかかりつけの獣医師に相談してみてください。


「育て方・犬種のこと・その子のこと」は、ブリーダーへ

ここが、犬舎として一番伝えたいことです。

ブリーダーに相談することには、他のどの相談相手にもない「当事者性」があります。

その子を産み、育てた唯一の人

ブリーダーは、その子が生まれた日から引き渡しの日まで、毎日一緒にいた人です。

どんな環境で育ち、何が好きで、どんな刺激に敏感だったか。
その子の気質を、数字ではなく肌感覚で知っています。

ペットショップを通じて迎えた場合、産んだ人と飼う人の間に流通が入るため、この「当事者性」が途切れます。
ブリーダーから直接迎えることの大きな利点のひとつは、
子犬を取り上げた本人と直接つながり続けられることにあります。

血統と犬種特性を知っている

親犬の性格、その系統の傾向、犬種として持ちやすい気質
——これを踏まえてアドバイスできるのがブリーダーです。

「この子の親は活発な性格だったので、最初は刺激の多い環境より、落ち着いた環境で慣れさせた方がいいですよ」

こういう話ができるのは、産んだ当事者にしかできません。

「売ったら終わり」でいいのか、という問い

業界の現実として、子犬を引き渡したあとに連絡が途絶えるケースは珍しくありません。

特に流通を介す場合、産んだ人と飼い主さんが物理的に切れてしまいます。

ラーテルは、その考え方をとりません。

繁殖した子は「我が子」だと思っています。

迎えてもらった後も、その子が幸せに暮らしているかどうか
——それがブリーダーとして何より大切なことだと、考えています。


「しつけ・問題行動」は、トレーナーへ——でも、早めに

しつけやトレーニングは、専門のトレーナーの領域です。ただ、ひとつだけ強調させてください。

問題行動を放置すると、関係が壊れていくという現実があります。

英国で行われた研究(PMC8532592)によると、犬を手放すことを申請した飼い主の34.2%が「行動の問題」を理由として挙げています。

そして注目したいのが、Frontiers in Veterinary Scienceの2021年の研究です。手放した飼い主の69.3%が「うちの子に問題行動はない」と答えていたにもかかわらず、詳細な行動評価では現役の飼い主の犬より問題のあるスコアが出ていました。

つまり、「問題と気づかないまま、関係が限界を超えてしまった」というケースが多いということです。

これは、とても悲しいことだと感じています。

正の強化——「褒めて育てる」が、今の科学の答え

しつけには、大きく分けて「罰で抑制する方法」と
「よい行動を褒めて伸ばす方法(正の強化)」があります。

米国獣医行動学会は2021年の声明で、科学的エビデンスに基づき、報酬ベースの手法を推奨するという立場を示しています。

また、罰を含む手法を2種類以上使う飼い主の犬は、そうでない犬より心理的に悲観的な傾向
(ものごとを否定的に捉えやすい状態)を示すことが報告されています(Scientific Reports, 2021)。

怖がっている犬に罰を与えると、「この状況=怖い・痛い」という結びつきが強くなり、
かえって問題行動が悪化する可能性があります。

これは行動科学の仕組みから説明できることですが、「必ず悪化する」という断定ではありません。

ただ、そのリスクがある、という認識は持っておいてほしいのです。

トレーナーの資格について、正直に

ひとつ、正直に伝えておきます。日本では、犬のトレーナーは国家資格が必要な職業ではありません。

「プロ」と名乗ることに法的な制限がないため、
知識やアプローチは人によって大きく違います。

信頼できるトレーナーを選ぶ際は、どんな考え方・手法を使っているか、
学習歴や取得資格を確認してみることをおすすめします。


ブリーダーとトレーナーの「境目」——ラーテルが両方カバーできる理由

「基礎的なことはブリーダーに聞いて、しつけはトレーナーへ」——これが基本の整理です。

ただ、両者が重なる場面もあります。

迎えたばかりの頃の社会化、甘噛みの対処、トイレの基礎、留守番の慣らし方。

こういった「最初の一歩」は、その子の犬種と気質を知るブリーダーが伴走できる場面が多いです。

一方、定着した問題行動、強い分離不安、本気噛みなどは、技術を持ったトレーナーの専門領域です。

ラーテル犬舎の代表は、もともと動物トレーナーとして勤務していた経緯があります。

そのため、「この犬種はこういう性質を持っている」という知識と、
「この行動はどういう仕組みで起きているか」という行動科学の知識を、両方から話すことができます。

「しつけについてもブリーダーに相談できる」——そう言える根拠は、ここにあります。

ただ、医療が関係する行動の異常(身体疾患から来る突然の変化など)は、獣医師・行動診療科の領域です。

その線引きは、私もも誠実に守ります。


まとめ——迷ったときの地図

改めて整理します。

  • 体のこと(病気・ケガ・急な変化) → まず獣医師
  • 育て方・犬種のこと・その子のことブリーダー(出産時取り上げを行った当事者)
  • しつけ・問題行動・トレーニングトレーナー

そして、迷ったときの最初の窓口は、その子を産んだブリーダーでいい、と思っています。

「これは病院かな?」「これはトレーナーかな?」
——その振り分けを一緒に考えることも、やっていきたいことのひとつです。


一人で抱え込まなくていいです。

犬を迎えるというのは、慣れている人でも、毎回試行錯誤しながらやっています。

初めての方が「わからない」「不安」と感じるのは、当たり前のことです。

一緒に、その子との毎日を積み重ねていけたらと思っています。


参考文献

  • 犬のリホーミングと行動問題に関する研究『Animals』(MDPI), 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8532592/
  • Mariti C, et al.「Relinquishing Owners Underestimate Their Dog’s Behavioral Problems.」Frontiers in Veterinary Science, 2021. https://www.frontiersin.org/journals/veterinary-science/articles/10.3389/fvets.2021.734973/full
  • AVSAB(米国獣医行動学会)「Humane Dog Training Position Statement」2021. https://avsab.org/wp-content/uploads/2021/08/AVSAB-Humane-Dog-Training-Position-Statement-2021.pdf
  • AVSAB「Position Statement on the Use of Dominance Theory in Behavior Modification of Animals」https://avsab.org/wp-content/uploads/2018/03/Dominance_Position_Statement_download-10-3-14.pdf
  • Zilocchi M, et al.「Dogs are more pessimistic if their owners use two or more aversive methods.」Scientific Reports, 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8463679/
  • ASPCA「Behavioral Help for Your Pet」https://www.aspca.org/pet-care/general-pet-care/behavioral-help-your-pet
  • VCA Animal Hospitals「Do I Need a Trainer or a Behaviorist?」https://vcahospitals.com/know-your-pet/do-i-need-a-trainer-or-a-behaviorist
  • JAHA(日本動物病院協会)「しつけインストラクターとは」https://www.jaha.or.jp/owners/instructor/

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